映画レビュー『マイ・インターン』
学生時代は学業をサボってでも映画を見ていたにも関わらず、映画に関係する仕事についてからは義務感のせいか、はたまた視点が変わってしまったのか、映画を見る本数がめっきりと減ってしまった。むしろ昔観た作品を見返して「やっぱり面白いな」などと懐古することのほうが中心となっているあたり、もう若くないのかもしれないと焦りを覚えることもしばしば。
ただ流行に後れているという焦燥感はない。映画に関するハード面やインフラは大きく進化しつづけているが、特定の効果を狙った演出などのソフト面はセオリーに大きな変化は見られず、こと脚本に関しては古典の重要性に気づく人も増え、より盤石さを増しているとさえ感じる。
マイ・インターン (原題:The Intern) 2015年
監督:ナンシー・マイヤーズ
監督は『ハートオブウーマン』を撮った監督です。メル・ギブソンが突然女性の心を読めるようになってしまい「こんなに理解してもらえるなんて!素敵!」ってなるコメディ映画。
特殊能力を持った主人公がハーレムを作るなんて、なろう系小説みたいですね。この記事で紹介したい映画も割とそんな作品です。
『マイ・インターン』のあらすじはこんな感じ。
妻を亡くし仕事も退職していた70歳のベン(デニーロ)は、退屈な毎日を変えるため新進気鋭のファッション通販会社にシニア・インターンとしてエントリーする。
この制度は公共事業的な側面を持っているため、企業側もその戦力には大して期待をしておらず、また雇われる側も今どきの企業体質になかなかついていけない人ばかり。
しかしベンは持ち前の洞察力と地頭の良さから、不慣れな環境でも仕事人としての存在感をバリバリ発揮していく。
一方で女社長のジュールズ(ハサウェイ)は、自宅の台所から始めたビジネスを見事に成功させた才能を持つものの、夫と娘が待つ家庭や、社長業と自分の望む働き方とのズレを感じている。
そんな二人がコンビを組んで、人生と会社の立て直しを図るというかなんかいい感じに展開していく、有体に言えば働く女の人が好きそうな映画ですよねって感じ。
デキる社長はチャリで移動する。(ただし秘書は後ろを走る)
ところでマイ・インターンって邦題にすごく違和感があるんだけどどう思います?(恒例の邦題ディスり)
インターンシップは制度の名前であるものの、その制度を利用して入社した社員のことを「彼はインターンだ」と呼ぶことに不思議はありません。
ただし「彼は私のインターンだ」と呼ぶのは違和感バリバリです。
映画の内容的にベンは社長の専属となるため、内容を反映させたタイトルになっていることは理解できるのですが、原題(The Intern)が違和感なくそれをしているのに対し、邦題があまりにも雑な印象を受けます。
徒弟制度で働く若い人を「あいつは徒弟だ」と呼ぶことに違和感はありませんが、親方が「あいつは俺の徒弟だ」と呼ぶのはちょっと変ですよね。
素直に「あいつは俺の弟子だ」と呼ぶのが一般的な気がします。
こんなことはどうでもいいですか。そうですね。
この映画の面白い特徴として「働く女性」と「オタク男性」という、普通なら相反する属性と言うか、何なら後者が最も敬遠しそうな存在に向けて作られていそうな作品であるにも関わらず、どちらも留飲を下げられる構造になっていることです。
一般的な女性向け作品ですと「完璧っぽい彼氏に振られて落ち込んだりもしたけれど、実は最低野郎だったし、身近に目立たないイケメン見つけたわ。私ハッピーやで」みたいな作品だとか「男に虐げられてきたけど見返してやったで、私って最強ね」みたいな安直なものが多い。
前者の少女漫画的な展開って、オタク男性からするとステレオタイプな悪役イケメンにも、内面とかセンスとかで勝負できる掘り出し物にもなれなくてイライラするだけだし
後者に至っては、ただただ男性が悪役として描かれるだけで、おまけに女性のほうは勝利するに足る明確な強さとか才能みたいなものが抜け落ちているパターンが多い。
敵はいつもナチスかソ連で、主人公のアメリカ人には絶対に弾が当たらない、みたいな。
この作品は飽くまでも男性側のベンを中心にストーリーが展開するし、何なら70歳の爺様に見ている男性が劣等感を覚えることもない。
そして女性からも老紳士に対してセクシャルな危機を感じず、父親のような安心感さえ覚えてしまうのだ。
デキる秘書は一歩後ろを歩く。(ただしアングルは中心になる)
さらにさらに、このベンという男は非常に優秀なのである。
インターン制度のエントリーには自己紹介の動画を撮影し、youtubeにアップロードするという敷居があったが、勉強熱心なベン(70歳)はあっさりとやり遂げてしまう。
同僚の若い男性社員には恋のアドバイスをし、女社長には企業戦士としてのアドバイスをし、常にデキる男をアッピールしつづけていく。
それを鼻にかけることもなく、ヒステリックに泣き出した女性にはそっとハンカチを差し出す余裕も。なんだこいつ完璧超人か?
50年という人生の半分以上を企業に捧げた戦士は、経験値がまるで違うのだ。そう、これは高度経済成長期を支えた老害が、現代のベンチャー企業に異世界転生したなろう系小説といって差し支えない。むしろそうとしか思えない。みんなもハンカチを持ち歩こう!
今どきステレオタイプなヒキオタニートがどの程度生息しているのか分からないが、そんな人にも珍しくオススメできる女性向け映画である。
ニューヨークの華やかなアパレル業界なんて、妖精の出てくるファンタジー世界とほとんど変わらないし。
またオレ何かやっちゃいました?