『バサジャウンの影』レビュー
Netflixオリジナルの『オキシジェン』を見て、ひどい映画だったレビューを書こうと思ったんですが、私が書かなくても十分酷評されてそうなので断念。*1
やっぱり面白い映画見て「面白かったー」って言いたいですよね。ねえ、Gさん。
『バサジャウンの影』(原題:El guardián invisible) 2017年制作
監督:フェルナンド・ゴンサレス・モリナ
主演:マルタ・エトゥーラ
原作はドロレス・レドンド*2による「バスタン渓谷三部作」と呼ばれるミステリ小説で、原題と同じくEl guardián invisibleとなっている。意味は「見えざる守護者」
1作目だけ翻訳されているが、他は未翻訳。
そのせいなのか、映画化されている2作目以降も、Netflixで日本語字幕が制作されていない。待っていれば翻訳されるのか・・・?
舞台はフランス国境にほど近い、スペインの片田舎。意味ありげな少女の絞殺死体が立て続けに発見されたことにより、FBIでの勤務経験があり、地元出身の女性刑事が担当を任される。
使命感を持った女性がプロファイリングをしつつ、いたいけな少女を狙うシリアルキラーを追う構図は『羊たちの沈黙』に近いものを感じつつ、田舎の村独特の閉鎖的な身内感や、オカルトめいた因習が付きまとう。*3
『Calibre』でも言及した気がしますが、「こういうのでいいんだよ」感がすごい。
馴染みの薄い文化圏の風習、全体通してじめーっとした暗さや中盤のダルみなどが評価を下げているようだが、三部作の1作目ということで、設定の説明に手間がかかって少し遠回りな印象を与えた。
説明的な台詞が目立つ訳ではないが、結構な数と頻度で少女が殺される割には、主人公の家庭環境と同時進行するのが、少々引っかかるのだろう。そこも見どころだと思うんですけどね。
お母さんが怖い。ヒステリック魔女ババア。
お姉ちゃんも怖い。絵に描いたような長女。
最初は感情移入できるか自信のない主人公だと思っていたが、無能な訳でもなく、かといって女性ウケを狙ったキャリア志向の強い女性でもなく、私生活と使命感に板挟みになりながら、過去のトラウマに寡黙に向き合う様は健気で応援したくなった。
ハリウッド映画は属性を強く打ち出しすぎなので、こういう地味だけどしっかり芯の通ったキャラクターは大変好ましいです。
捜査担当から外されてしまい、落ち込む主人公。この村いつも雨降ってんな。
印象が悪いかなーと思っていたオカルト要素は、あまり批判的なレビューは見られなかった。むしろ「田舎の森で連続殺人?絶対見るわ!オカルト?最高やん!」みたいな変態レビュワーが多かった。
邦題にもある「バサジャウン」とは、バスク神話に登場する森の精霊。フランス~スペインのごく一部でのみ伝承されるアニミズム信仰で、太陽や雷など、自然現象それぞれに神様がいる。天地創造系の話はなく、葬送儀礼なども存在しないようなので、宗教というよりは御伽噺として伝承されるに留まる。
少女が失踪して、森で発見されることからマスコミが「バサジャウンの仕業じゃ!」と煽るものの、本来は守り神らしい。これが原題の「守護者」と繋がってくる。
恐らく原作ではもうちょっと踏み込んだオカルト要素があると思われるが、映画のほうでは露骨にトリックやメインプロットには介入しない。舞台設定やストーリーのフレーバーとして重要な位置にあるのは間違いないが。
主人公の育ての親である叔母(父方の姉?)がタロット占いをしてくれたり、すこーしだけ捜査のお手伝いをしてくれるような、そんな感じ。余り細かく言うとネタバレになってしまうが、多分続編にはもう出てこないので、もうちょっと丁寧な描写が欲しかった。(もしかしてオカルト要素は1作目だけなのか・・・?)
地味すぎるのと脱線があるせいで分かりづらいが、伏線もしっかりとあってミステリ要素も踏みつつ、家庭問題や現代の性の乱れに対する警告、女性の社会進出的な要素と、メッセージ性はちゃんとある。
突っ込みどころも勿論あるが、一番笑ったのが証拠品のクッキーを食べちゃうところ。(他レビュワーもめっちゃ突っ込んでた)
「ムム、これは石窯で作った本格チャンチゴリ*4!」みたいな。
あと現場検証中にヌートリア(カワウソ)見つけて「何奴!」ってテンションで躊躇なく発砲する無能刑事とか、可哀想になって「介錯いたす」とトドメの1発ぶち込んだり・・・。怒られるぞ。
たぶんNetflix側も「日本から結構再生されてんな、続編翻訳したろ」と思うはずですので、暇な人は是非見てやってください。鬼女板とか好きな人はハマります。