いまさら『エイリアニスト』

なぜかは分からないけれど、唐突に『アイアムサム』と『宇宙戦争』と『PUSH』と、ついでに『スーパー8』を見てしまい

そのままの勢いで見始めたドラマ。なぜかは分からないけれど。(白々しい)

やっぱり子役の時はダコタだけど、大きくなってからはエルのほうが女優然としている気がする。

 

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『エイリアニスト』(原題:The Alienist)

19世紀末、精神病患者は人間本来の本質が損なわれていると考えられていた。

人々は彼らをエイリアンと呼び、彼らを研究する人を「エイリアニスト」と呼んだ。

 

・めっちゃいいなーと思ったところ。

物語の大枠は、ミステリー要素の強い犯罪捜査系クライムサスペンス。

特筆すべきは舞台が1896年のニューヨークである点。20世紀以降の現代的な社会への過渡期がハッキリと表現されている。

『スリーピーホロウ』にも描かれていたが、あの時代のニューヨーク市はファッションや街の外観が非常にオシャレであり、また今では当たり前のことすら、当時の人たちには奇異に受け取られていた。(例えば映画館はまだ「キネトスコープ」と呼ばれ、風景写真をパラパラ漫画で流すだけであった。それでもピアノの生演奏と共に波打ち際が映し出されると、観客は水しぶきを避ける動きをして大喜びしたのだ。)

犯罪捜査に関しても御多分に漏れず、犯罪心理学、科学捜査、警察官の拳銃所持など、現代では当たり前に行われていることが、芽吹き始めている。

ここらへんがいわゆる「異世界転生」っぽく機能しているので、主要人物の有能さと、前時代的なその他の人物が相対化され、見ているほうも流暢に物語を理解することができる。

人間は分からないことに対して恐怖や興味を抱いたりする珍しい生き物だが、やはり「分かっている」ほうが、よりその感情を喚起しやすい。

例えばホラーでは怪物側のカメラ視点で主人公を眺めたほうが「志村うしろー!」と盛り上がれるし、全然分からない分野よりも多少見識があるほうが、上から目線で余裕をもって見ることができる。

それが良い作用をすることもあれば、悪い作用をすることもあるのだけれど。

逆にこの流れで物語が展開していけば、主人公達の「障害」として立ちはだかるのは、やはり前時代的な慣習や無知故の差別であったり、科学への反発であったりと、有体に言えば「そこは人類がとっくに通り過ぎたはずでは・・・」と辟易してしまう。

科学的な裏付けや臨床的な結果が出ていないが故に、主人公達ですら迷いが生じたり、抽象的で曖昧な表現を繰り返すだけになるシーンも見られた。

ここらへんがドラマ特有の冗長さを際立たせていて、スッキリとしない。(ただでさえクライムジャンルは、犯人がやっつけられることでしかカタルシスを得るまともな結末が存在しない。)

 

・魅力的なキャラクターたち

ネット上でドラマのレビューを見てみると、一番目立った評価はキャラクターだった。(ちなみに検索2位は「エイリアニスト 犯人」だった。理由は後述。)

 

主人公ラズロ精神科医として成功している人物で、精神病院を経営する傍ら、刑事事件の精神鑑定をしたり、NY市警の本部長と交友関係を持つ。

捜査協力というよりは、ポケットマネーとコネを使い、連続殺人犯とプライドを賭けた勝負をしていると考えたほうが正しい。

けっこういい所の坊ちゃんだが、気難しい性格と右手の障害が原因で、昔の患者を使用人として雇う気ままな独身貴族。

見た目は威厳のあるダンディなドクターなので、たまに見せるうっかりした所のせいか評価が高い。確かに女性ウケはよさそう。

その一方で、実直な努力しか取り柄が無いとも言え、頭の良さをひけらかしたりとプライドが高く、爽やかハンサムな友人の社交性や才能に劣等感を持ってもいる。

自尊心と劣等感でごちゃ混ぜになった、男ウケの非常に悪いタイプ。

 

立ち位置としては『パーソンオブインタレスト』のハロルドや『トゥルーコーリング』のデイビスのような、場当たり的な主人公を抑えるブレイン担当に近い。

(つまるところ『NCIS』のリロイや『クリミナルマインド』のデヴィッドのように、強いリーダー像は打ち出せていない。精神科医なのにメンタルブレブレ。)

 

友人ジョンニューヨークタイムズに絵を提供する絵描き。今でいうパパラッチと法廷画家を足したような位置っぽい。

ラズロに命じられて事件の現場保全(被害者の遺体模写)をしたことから、捜査グループのメンバーに。

ハンサムで、酒と女に溺れ、やっぱりけっこういい所の坊ちゃんなので、気ままな独身貴族。

才能に悩んだり、女性にトラウマを抱えたりと実は苦労人なのだが、主人公からは一方的に妬まれている。

ジョセフ・ゴードンみたいな、ちょっとワルそうなイケメンなのだが、死刑囚と面会したらビビりまくったり、主人公の代わりにボコボコにされたりと、情けないシーンが多い。ボンボンだから仕方ないね。

 

NY市警女性職員サラ。ジョンの幼馴染であり、NY市警の女性職員第1号という肩書。

その実態は本部長の秘書でありタイピストで、まだまだ女性の社会進出は過渡期ですらない。

主人公達の捜査グループと、警察内部のパイプを担当する一方で、事件解決に貢献する重大なひらめきをしたりと、実は一番優秀なんじゃないか説。(なんだこのマジカルニグロ感は。)

幼い頃に母を亡くして父に育てられ、銃の扱いや酒の飲み方は当時の男性より一人前だったりする。

実は本作を見る前は、サラを演じるダコタ・ファニングが「そんなことも分からないなんて、警察もお粗末ね」みたいな、あたいったら最強ね系の高慢私立探偵ドラマだと思ってて

ならず者みたいな当時の警察官に露骨なセクハラをされても、じっと耐えるサラが不憫でギャップがやばい。

ラズロの髭にちょっと惹かれてみたり、幼馴染のジョンからアプローチされてみたり、お約束な展開もあるが、そんなことよりゴネる殺人犯を平手打ちして「おだまり!」とか言ってくれたほうが多分面白い。

 

その他にも、ユダヤ系の双子警察官が科学捜査を担当したり、主人公の使用人が囮捜査や裏方を担当したりと、確かに魅力的なキャラクターに溢れている。

 

・問題点というか要望点というか

シーズン1は全10話ということで、シリーズドラマの中では割と短い部類に入るんですが

死体が見つかり、どうやらただの怨恨じゃなさそうだぞ~被害者少年の男娼にまつわる暗い背景~連続殺人事件なのでは~容疑者は富裕層だから逮捕できないかも~警察の隠蔽や不祥事とかとか

(ついでに主要人物の過去とか内面描写とか。)

要素が多すぎる。

いくらなんでも40分の間に詰め込み過ぎて、風呂敷をたたむ前にもう次の風呂敷が開いてるんよ。

もうちょっと、1話完結でテンポ良くいくなり、メインの事件と同時進行で他の問題を解決したりしてくれれば、途中で中断しても「続き見ようかな」という気になるのに

ストレンジャーシングス』とか『ブレイキングバッド』のように一気に見たら勿論面白いし、続きが気になって細切れでもいいから最新話を見たい、という気にさせてくれない。

「まぁ面白いけど、完結したら教えてください。気が向いたら見ます」とか「つまらなくはないけど、8時間もかけて見るのはしんどい」というのが、圧倒的多数ではなかろうか。

しかも10話かけてたった一人の犯人を追いかけているものだから、そりゃあもちろんお約束な展開もあるわけで、二転三転としているうちに「で、結局犯人誰だったっけ?」という結果になりやすい。(検索ワードに「犯人」って入れさせる作品は正直失敗している。)

キャラクターは魅力だけど、ねちねちいじめられてるだけだし、最後まで見るのはなぁ・・・という人も少なくないのではないか。ちなみに私はジョンとサラの衣装を見るためだけに視聴している。

 

もっとハッキリと安直に「『CSI』の19世紀版です」と割り切ってくれれば非常に見やすかった。

それでは私は『シャーロットのおくりもの』を見に行きますのでさようなら。