数ある沼の中でも、洗車沼と呼ばれるものは厄介だ。
絶対的な正解がないものや、最終的なゴールが見えず、終わりのない散財やコレクションを繰り返してしまう点は、他の趣味における沼と変わりはない。
金額や性能の折り合いに悩み、物欲に負けて上位互換に乗り換え続けるのも同様だろう。
洗車沼が他の沼と大きく違う点は、いかに楽をして愛車を綺麗な状態に保つのか、この一点に尽きる。悩むのは金額と労力との折り合いである。
愛車の敵
そもそも、洗車の目的とは何だろうか。車を綺麗にすることである。
ならば車の汚れとは何か?そこから詳しく解説せねばなるまい。
・砂や泥、地域や季節によっては花粉、黄砂、火山灰、融雪剤
付着して時間が経過していなければ、ほとんど水洗いで落とせる。カーシャンプーを併用するとそれほど苦労することはないだろう。洗車頻度が求められ、ボディへの傷を誘発する憎いヤツ。洗車と聞いて想像するのは、通常ここまでだろう。
・鉄粉、ブレーキダスト
主に足回りに発生し、欧州車に多く見られる。新車からマメな洗車をしていれば特筆すべきことはないが、通常のカーシャンプーでは落ちないため、あまり多いようだと専用の薬剤が必要になる。ボディに突き刺さった鉄粉は勿論、傷の原因となる。
・スケール汚れ、イオンデポジット
ボディ全体を白っぽくくすませ、時に白い斑点として現れる恐ろしい存在。この上からガラスコーティングなどしようものなら、斑点の上に斑点が発生し、もはや研磨することでしか綺麗にすることはできない。マメな洗車や、青空駐車を避けることで防止が可能だが、発生原因が「水」であり、濡らさずに走行や洗車をする方法などあるだろうか?いや、無い。*1
・油分、残留したワックスやコーティング
こちらも、もやーっとしたくすみで愛車に「経年劣化車」のレッテルを張り付けてくる。汚れの中では一番目立ちづらく、塗装へのダメージも深刻ではないが、水染み、水垢を誘発させる上、愛情をもって愛車を手入れする人ほど蓄積しているものである。*2
戦うための道具
それでは実践的なパートに移ろう。最低限必要なものから列挙していく。
・高圧洗浄機、シャワーノズル付きホース
何はなくとも、水をかけないと話にならない。高圧洗浄機は持っていると便利だが、出し入れが面倒で高額な点が敷居を上げている。
スノーフォームランスと呼ばれる、泡を噴射できるアタッチメントがあると諸々捗るが、初心者が安易に楽をしたくて手を出すべき存在ではない。*3
目に見える大きな汚れを吹き飛ばすことが最大の目的なので、水圧の高いヘッドであれば普通のホースでも十分事足りる。
ちなみに本気の洗車プロは純水器と呼ばれる装置まで持っているが、これは別の世界線でのお話なので、購入を検討するくらいなら素直にプロの洗車ショップにお願いしたほうが早い。
・マイクロファイバータオル
洗車において最大の労力を求められ、ボディの最大の敵である水を除去するための拭き上げに必須。
水だけでなくワックスや撥水材、あらゆる場面の仕上げで使うため、何枚持っていても無駄にならない。引っ越した先に車好きがいたら、ご挨拶にはマイクロファイバータオルが喜ばれるだろう。
ちなみに何をするにも、必ず濡らして硬く絞った状態で使うこと。布の硬さでもボディの塗装面は簡単に傷が入る。そしてボディ用、液剤別、下回りなど、使い分けつつ、汚れたら洗って、数回使ったらすぐに捨てて構わない。
意外と洗濯機内部の糸くずやゴミなどが絡みついて取れないので、寿命は非常に短い。
・カーシャンプー
必ず必要だが、これといって条件があるわけでもない。目的や効果も様々で、お値段的にもそれほど財布を圧迫してこない。問題は洗いたい時に手元にあるかどうかだけだ。
鉄粉除去剤が入っているもの、ブレーキダストに強いホイール専用、酸性、中性、アルカリ性、色々とあるが、amazonを眺めて売れ筋のもので構わない。
ちなみに希釈倍率が高くコスパが良いものは、洗っても洗っても無くならないというマゾ向けの商品となっているので、洗車沼の入り口はシャンプー沼と言っても過言ではない。
・スポンジ
洗うための道具全般。実際にボディに触れるものなので、タオルよりも質が求められますが、使い方さえ分かっていれば何を使っても自由です。
食器洗いなどのスポンジに酷似した商品もありますが、柔らかいものが多いです。スポンジ自体で傷をつけることを防ぎ、泡の保持を長くするためです。
マイクロファイバータオルとほとんど同じ素材の、ウォッシュタオルや、ウォッシュミットも、ここ最近では定番になっています。水を多く含みやすいため、重たいのが欠点ですが、洗車は力を入れてこするものではないので、流れるように作業できます。
意識の高い人は羊毛のミットを使う人も多いでしょう。極限までボディへの傷を防ぐことが目的ですが、細かいゴミが絡みやすく、泡となじみにくい気がして個人的にはスタメン入りしませんでした。
さらに意識の高い人は、細部の洗浄用に筆を使う人も増えてきました。目立たないところほど、汚れていると目立つものです。
・ワックス、撥水材
この辺は洗車を終えた後の美観の問題であり、好みと言えばそれまでだが、次回の洗車の手間を減らしたり、洗車頻度を下げてくれる効果もある。
何より愛車を美しく保つことが目的なので、綺麗になるほど達成感を生み、モチベーションが変わってくる。
ボディの艶という点に置いては、一番手間がかかる固形ワックスに勝るものはない。苦労する分、愛おしさもひとしお。
撥水については、フロントガラスだけでも施工しておくと雨の時に運転を楽しくしてくれる。汚れもつきにくくなり、ワイパーやウォッシャー液の使用頻度も下がって経済的だ。
特にフロントガラスが汚れて、ウォッシャー液をぶちまけてワイパーを動かすことで、ボディに汚れが飛散し、二次災害を生むことになる。
ボディの撥水については、色々と派閥が存在するので戦争にならないようにしましょう。
通常の綺麗に保たれた塗装面は親水状態と呼ばれ、水がだらーんと垂れていく状態。水はけは最も悪く、水滴の高さも低いです。
メリットとデメリットが分かりやすいのは撥水状態。ボディのコーティングはほとんどこれを目的になされることが多いです。濡れたボディにコロコロとした水滴が発生し、急な角度や風を受けると水滴が流れ落ちる様は絶景。その反面、流れ落ち損ねた水滴は、水分に含まれるミネラル分を残して蒸発し、ボディに残留します。炎天下の青空駐車では自殺行為になるでしょう。
玄人好みで定義が曖昧なのが疎水状態。丸い水滴はほとんど発生せず、かといって親水状態よりも圧倒的に早い速度で水がはけていきます。拭き上げも非常に楽で、マイノリティながらも良い仕事をします。欠点があるとすれば商品の少なさや、施工の手間、耐久性の短さでしょうか。
実際の流れ
それでは上記の道具を踏まえた上で、理想的な洗車の手順を見ていきましょう。
まず洗車をしようと思い立ったら、天気予報を確認します。冗談だと思いますか?そんなわけないだろ、洗車舐めてるのか?
洗車は必ず快晴ではなく曇りの日などに行うこと。真夏の炎天下などは弾薬庫で煙草を吸うのと同義です。*4
愛車の最大の敵は、汚れそのものではなく、水および水に含まれる成分です。直射日光によって揮発する際に残った汚れは、確実に塗装面にダメージを与えます。最悪、水滴のレンズ効果で取り返しがつかないことに。
また、走行直後でボディやホイールが熱を持っている状態も好ましくない。洗車を開始したら、まずは何を置いても水をかける。汚れを落とすためでもあり、ボディを冷やすためでもある。
最初の関門は砂や泥。可能な限り強い水圧でボディ全体を濡らしながら吹き飛ばしていく。*5
最初に洗い始めるのは足回り。一番汚れているところから。スプレータイプの足回り専用洗剤や、専用のブラシなどを持っておくと捗る。
次にバケツに溜めておいたカーシャンプーを、スポンジ等でボディに乗せていく。洗うというよりは、載せて撫でるだけに近い。少しでも抵抗を感じたら、スポンジを洗って綺麗な状態で行うこと。神経質な人はシャンプー用とスポンジ洗浄用に2つバケツを用意する。
全体を洗い終えたら念入りにシャンプーを洗い流し、洗い残しが無いことを確認する。洗っている最中に渇いてくるようなら、分割して行うこと。左側だけ洗う→洗い流して拭き上げる→右側を洗う。
濡らして硬く絞ったマイクロファイバータオルで拭き上げ、小まめに絞って水を落とす。この状態でタオルがひどく汚れているようでは、最初の手順が不十分だったことになる。拭き上げながら鉄粉やスケール汚れなどを確認していく。*6
特にミラー周り、ドア周り、トランク周りは隙間に水が残りやすく、拭き終えたと思っても安心しないこと。後から水滴が垂れてきて跡が残りやすく、放置するとそこが水滴の通り道になってミネラル分などが蓄積していく。湿ったタオルなどを押し当てていると、結構いつまでも水が出てきて驚く。万全を期すならば、拭き上げ後にドアは全開にしておくとか、細かい隙間はブロワーで吹き飛ばすなどが望ましい。
除去可能な汚れがすべて落ちた後は、至福のお手入れタイムだ。固形ワックスを塗り込むもよし、タイヤやホイールにも専用のワックスがあるので試してみるのもいいだろう。
勿論、車内の清掃だって洗車のひとつだ。運転していて気になるのは、フロントガラスの外側よりも内側の汚れだったりするものだから。
新しい撥水材試してみようかな。内装専用のクリーナーを買ってみようか。お気に入りの芳香剤を見つけたら儲けもの。いつかあんなパーツをつけてみたいな。
楽をするために、洗車グッズを買い揃え、満足のいく洗車ができたら、新たな物欲が沸いてくる。洗車に終わりなど無く、いつしか手段が目的へとすり替わっている。そう、これが洗車沼である。