Netflixオリジナル映画『オールド・ガード』レビュー

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 オールド・ガード(原題:The Old Guard)

監督:ジーナ・プリンス=バイスウッド

主演:シャーリーズ・セロン

 

Netflixオリジナルなので、少し警戒したものの、セロン主演アクションに釣られて視聴。

前回のアレのこともあるので、本当に期待しないで見たのが功を奏した感じ。

↑前回のアレ

 

今作はRotten Tomatoesの批評家支持率79%です。どれだけひどいかがよく分かりますね。ちなみにどちらも大人版アメコミのグラフィックノベルが原作。

あらすじはこんな感じ。

何世紀にも渡り、歴史の影で暗躍し、誰にも知られることなく人類を守り続けてきた秘密の特殊部隊オールド・ガード
そのメンバー5人は永遠の命を持つ不死身の傭兵たちであり、ある日、傭兵たちの不死身の能力が何者かによって暴かれ、恐るべき陰謀のためにその能力を複製しようと企む強大な謎の組織から狙われることに

 

全体の印象として、アメコミ的なご都合主義を隠すつもりは毛ほども無いんだなぁ、と感じた。

主人公たちが不老不死であることは、そういう設定として受け入れられるものの、科学的に解明しようとする動きがある割にはそのメカニズムの一端には触れられない。

こういう非現実的な設定の部分を、スクリプト用語では「リアリティライン」と呼ぶが、どこまでそういう設定とするか、という線引きは中々難しい問題と言える。

舞台設定が現実とさほど変わらないにも関わらず、主人公の設定が現実離れすればするほど、観客の共感は薄れ、作品世界への没入も薄れ、チープな仕上がりになる。

 例えば同じ不死の設定を持つ作品に、漫画の『亜人』が挙げられる。

この作品では、生まれつき特殊な物質「IBM」を発生させることができる人間が、不死の能力を持っている。

老化はするので寿命はあるし、IBMによって治療できる限界も存在し、肉体の損傷自体は修復できても、蘇生が行われない場合もありうる。

亜人』の中に存在するリアリティラインでは、この「IBM」だけが設定として作られ、その他の副次的な現象はほぼ現実世界と等しい。不老不死を扱う作品の中でも、かなり稀有な作品と言える。

 対して、今作の『オールド・ガード』では不老不死で数千年生きることができ、発生条件は不明で、不死者が発生した場合は能力者同士でお互いを認知できる。

不死者はごく普通の人間として生まれ育ち、怪我や病気もするが、ある日突然不死者になる。トリガーは不明。そして曖昧でありながら、恣意的な目的を持ち、ある日突然その役目を終えて不死能力は失われる。

説明不足であることに加えて、妙にスーパーナチュラルな設定がチラホラ出てくる。予知夢とか運命とか役目とか。

これは欧米人のお国柄というか、アメコミのよくある傾向とも言えるが、主演のセロン演じるアンディの厭世的で無神論な主義主張とギャップがあって、上手く機能していない。

原作がもうちょっとボリューミーなことを鑑みると、本来は登場人物の過去であるとか、心情の変化みたいなものに応じて、設定が開示されていくのかもしれない。

 

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通称アンディ。みんなからは「ボス」と呼ばれる。

正確な誕生年等は不明だが、本名は「アンドロマケ」でスキタイ族であるらしい。

今作の不死者はみな、何かしらの戦士であり、戦場で殺しあう最中の「戦死」が不死のトリガーになると推察される。

ただの遊牧民ではないことや、途中少しだけ映る衣装や戦闘スタイルから察するに、紀元前200~900年あたりだろうか。

神様なんていない、すべての現象に意味なんてない、という主張を持つが、不死者の勧誘には熱心で、自分の不死能力はそうでない人を救うために惜しげもなく用いる。

誰よりも運命論者で、長生きしすぎているためか達観している。もはや諦観の域。

 

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本名ナイル・フリーマン。1994年生まれらしい。

映画冒頭で、海兵隊員としてアフガニスタンで作戦中に戦死、そのまま不死者として蘇る。

出来立てほやほやの不死者のため、アンディに色々と質問したり戸惑いを見せるが、そういう立場が観客の作品案内役として機能している。その割にまともな解答を示さないアンディに、余計イラ立つ。

他の不死者メンバーは歴戦のツワモノ感がすごいが、彼女は人を殺したことも、死んだことも一度しかない。(彼女が所属する部隊は全員女性であり、ムスリム圏で作戦を行う上で現地女性に配慮した部分のみを担っていたと思われる)

その割に、映画中盤以降は開眼してジョンウィックみたいなアクションをバリバリ行うようになる。不死者ってすごいですね。

 

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ブッカーさん。1770年生まれで、ナポレオン率いるフランス軍に従事。1812年に加入とあるので、恐らくロシア遠征により戦死。

元妻子を持つ身であるが、家族は既に他界。不死は遺伝しないってことですね。

ナイルが加入するまでは一番の新参者で、お酒をこよなく愛す。

 

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ジョー。1066年生まれ。エルサレム近郊出身でイスラム教徒と思われる。

ロマンチストなガチホモ。

 

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ニッキー。1069年生まれ。元十字軍。

恐らく第一回十字軍遠征でジョーと出会い、お互い不死者となっては殺し合いを続けていたが、度重なる死線を超えて恋に落ちる。なんのこっちゃ。

 

 原作のお陰か、キャラクターの設定はしっかりしている。ゴリゴリのバトル作品ではあるが、アンディとナイルという中心キャラが女性であり、メンバー内にLGBTがいたりとポリコレ対策が完璧である。

映画版の監督に女性が起用されているのも、そこらへんに理由がありそうではある。

ただ、なぜかジョーとニッキーの熱烈なキスシーンには過剰なまでの妨害が入る。なぜだ。

これは深読みではないと思うが、アンディの元相棒であるクインという女性は相棒以上の何かだと思うのだが。登場人物6人中、4人が同性愛者なんて素晴らしいLGBT配慮ですね。

それとも同性愛が不死の条件なんか?

 

 設定が薄っぺらいけど、アクション良し、キャラクター良しで、グラフィックノベルの映像化としてはよくできていると思う。

原作が未読なので正当な評価と言えるか微妙なところだが、単体のアクション映画としては一見の価値ありと言える。

ひとつ我がままを言うとしたら、不死ならではのトリックであったり、戦闘スタイルがもう少し凝らされていると、もっと満足できた。

無限の住人』や『亜人』に代表されるような、不死と再生を利用したアクションや戦術が活かされると、能力バトルの要素が出てきて格段に厚みを増す。

続編を匂わせる終わり方なので、次回作では不死者同士の戦いが期待できる。そこでもう1歩踏み込んだ映像を見てみたい。