ゲームのはなし

 

ゲームの話をするふりをして、思い出話をしようそうしよう。
我が家にはゲームと名のつくものはなく、一番最初に我が家にやってきたゲームタイトルはDOOM2(mac版)だった。
では友達の家に入り浸ってコントローラーを奪う機会を虎視眈々と狙っていたかというと、そうでもない。
自宅から車で30分ほどのところに母の実家があり、そこにファミリーコンピューターがあった。
(両親は仕事が忙しくなると、しょっちゅう私達姉弟を祖父母の家に預けた)
私が小学生の時にはすでにスーパーファミコンなる、スーパーなものが世の中に流通していたが
私にとってのゲーム(いわゆるテレビゲーム)は祖父母の家で遊ぶファミコンだった。

今思うとそのソフトの充実ぶりは凄まじく、ドラクエ、マリオは言うに及ばず
グラディウスやくにお君、ディスクシステムまでオールジャンルをカバーする「ファミコン入門」としては必要十分な品ぞろえであった。
これが当時とっくに定年を迎えていた初老の祖父のものであれば、おもしろエピソードでも飛び出してきそうなものだが
とっくに嫁いで家を出ていた母の妹、叔母の持ち物だったのである。(お姉ちゃんと呼べと厳しく言われていた)
持ち主を失い、埃を被らぬよう厳かにタオルがかけられていたファミコンは、すっかり私を魅了した。

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その中でも異彩を放っていたのが、ソロモンの鍵というソフトである。
CS番組でよゐおっさんがプレイしたこともあり、現在ではそこそこメジャーなタイトルだが
当時はあまりメジャーではなく*1、数少ないファミコン経験世代の同級生の中にも、知っているものは皆無だった。
アクションパズルというジャンルだけ見ても、ファミコンというスペックを考えればその完成度の高さを伺える。
普通ならアクションかパズルしかできないソフト群の中で、どちらも体験できるのだ。
しっかり考えて作られた骨太な50ステージからなり、なおかつ頑張れば小学生の頭でも何とかクリアできる。
この難易度が絶妙で、画面をポーズして何度もシミュレーションしたものだ。

祖父は時折、私や姉を連れて「ジャスコ」的なところに連れていってくれた。
ゲームセンターと呼ぶにはあまりにもお粗末なエリアで小銭をせびったり
併設される本屋で小一時間かけて選び抜いた本を買って貰ったりしたものだが
ある日、姉には壮大な計画があった。
「私は今日、ゲームを買う。ゲーム機本体を」
そう言って、姉は祖父に最寄りのゲームショップへと向かうよう、行き先の変更を要求した。
土着の自然神を信仰する少数民族である私と姉の村において、新しい神を迎え入れるに等しい行為だった。
その神が、自宅でのゲームが禁止であったため、祖父母の家に降臨したのは、1997年の年始のことであった。
正確に思い出せるのは、クリスマスナイツが一緒についてきたからである。*2
当時のゲーム情勢を知るものならお分かりだろう、新しい神はセガサターンであった。*3
そして勘の良い人なら分かるはずだ。
「なぜプレイステーションではないのか」
(世間ではFF7発売直前の、最もPSブームが高まっている時代であった)

その理由は直後に買い足されたソフトの中に「ときめきメモリアル」と「KOF」があったことや
姉の自室に「庵×京のやおい本」があったこととは直接的には関係ないはずである。

とにかく私は、姉がゲーム、もとい神を降臨させるべくゲームショップにいる間
非常にそわそわとしながら店内をうろついた。何しろ初めてのゲームショップである。
ゲーム購入を神降臨に例えるほどだ。ソフトを自分で買ったことなどない。
様々なソフトがすでに祖父母宅に用意されていたとはいえ、そこはゲームショップ。
見たこともない名前や、知っているソフトの続編までまだ見ぬ大海の入り口がそこにはあった。そこにあったのだが。
私の視線は見慣れた桟橋のごとき、ひとつのソフトにくぎ付けになった。

ソロモンの鍵」5500円、買い取り価格4000円

ごせん・・・?
すでに当時のファミコンソフトなんていいとこ500円、クソゲーなんか100円で投げ売りされてた時代のはずだ。
なぜこいつは最先端コンシューマのソフトと同等の価値を持っているのだ。
すげえ、すげえよソロモンの鍵

それからなぜか触るのもおこがましい気がしてソロモンの鍵をプレイするのをやめた。
新しい神が「一緒に帰って友達に噂とかされると恥ずかしいし」などと言っているあいだ
徐々にその価値を一般的な中古ファミコンソフトと同等のものにしていき
気がつけば100円で売られていた。

なぜあのソフトが5500円もしたのだろうか。
Steamのウィッシュリストを眺めて、買うべきか削除すべきか悩んでいる私に、時折その思い出が去来するのである。

 

 

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1994年の思い出に寄せて。推しは片桐さん。オーアイシー。

*1:当時でも一定以上の年齢層ではメジャーだったようだ

*2:96年12月から97年1月までの2か月のみ、サターン本体に同梱されたオマケ

*3:ローマ神話の神の名前だからややこしくなってしまった