ドラマ『ターミナル・リスト』

ターミナル・リスト(原題:The Terminal List) 2022年

主演:クリス・プラット

あらすじ:SEALsアルファチームの隊長ジェームズは、シリアの極秘作戦中に待ち伏せを受けて部隊全滅の危機に陥る。帰国後、報告と記録が自身の記憶と食い違うことに気づき、陰謀への抵抗と復讐を決心する。

 

1シーズン全8話、Amazon制作でPrime会員なら無料で見れます。

Amazonのドラマは地味だけど小道具や美術にお金をかけてて、世界観がしっかりしてる作品が多いです。日本のドラマに比べて海外ドラマは映画並みとはよく言われますが、それ以上にクオリティが高いと感じます。

その点、ドラマとしてはやや中ダルみを感じるものも多く、商業的にはクリフハンガー感に欠ける印象があります。有料チャンネルで毎週公開するような形式ではないからでしょうか。

 

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』で演じたピーターは少しお茶目なキャラクターでしたが、本作でクリス・プラット演じるジェームズは、ゴリゴリの叩き上げ軍人でありプラグマティスト。個人的な復讐であっても感情はあまり表に出さず、作戦行動のように淡々とこなすのが格好良いです。

ただしストーリーの構成上、致命的なキャラ付けがなされており、1話で観るのをやめてしまった脱落者もちらほら・・・。

 

良いところ

銃器やミリタリー衣装などは非常にお金をかけており、豪華でリアル。演技指導もしっかりされていたし、銃撃戦のカメラワークも絶妙なバランス。ただしクリアリングの仕草や銃の扱いは少し「クサい」というか、オーバーなシーンも散見されました。

同じようなネイビーシールズもののドラマ『SEAL team』と同様、アクションシーンだけを切り抜けば満点に近いデキだと思います。

あと男女問わずキャスティングもよかったです。個性的すぎないのに、あまり注意深く鑑賞しなくてもどんな人物か分かりやすい。特に復讐を手伝ってくれるかつての戦友、真相解明に協力してくれる記者、追跡しながらも同情的なFBI捜査官など、王道的な配役を抑えてあります。

 

良くないところ

全8話で約8時間ほどの作品になるのですが、その間で頻繁に主人公の幻覚なのか過去の記憶なのか、無意味に感じる回想シーンが繰り返し流れます。特に娘とのやり取りはストーリーに関係しないにも関わらず、何も表現しないままオチにまで使いまわされます。

大抵の場合、こういうシーンは主人公のキャラクターを解説したり、感情移入させるために挿入されることが多いのですが、ストーリー設定の兼ね合いもあってか、信頼できない語り手*1のようにしか機能せず、せっかくの見事なアクションシーンや復讐劇も没入感が損なわれました。応援していいのかどうか判断に迷います。(感情移入の観点から言えば、冒頭から主人公目線で進んでいるので十分確保できている。大事なのは演出が定期的に行われるかどうかではなく、順序が正しいかどうかだと個人的に思う。)

相棒として機能する戦友はやたら従順だし、陰謀を暴く記者は野心や功名心が控えめだし、追跡するFBI捜査官とのやり取りは少しあっさりすぎます。これらの協力的な人物はすべて主人公の幻覚なのでは・・・。実は復讐をでっち上げた単独の軍事クーデターなのでは・・・?とすら邪推してしまいそうになります。

はっきり言って、2時間程度に収めようと思えばできてしまうし、原作小説をレイプすればいくらでもジェネリックザ・シューター』とかジェネリックランボー』が作れてしまうよなぁ・・・という身も蓋も無い感想だけが残ってしまいました。

 

主人公の個性と動機付けがこれだけしっかりしていて、芯の通ったキャラクターにも関わらず、作品世界の案内人や牽引する立場としては頼りなさすぎます。

かと言って、ながら見でもしようものなら、秀逸なアクションシーンを見逃したり、回想や幻覚シーンで時系列を見失ってしまうという手痛い構成。

地味なままでも構わないので、Amazon制作ドラマはもっとターゲットを絞った構成や演出にしてほしいなと思いました。まる。

*1:叙述トリックなどでミスリードを誘う登場人物

映画『オールド』レビュー シャマラン節炸裂

オールド(原題:Old) 2021年

監督:M・ナイト・シャマラン

あらすじ

南国のリゾート地にバカンスに来た家族は、ホテル支配人の薦めで穴場のビーチを訪れる。そこに居合わせた人物たちと、家族が味わう数奇な1日を描く。

 

20分くらいの短編でやれそうな、『トワイライト・ゾーン*1みたいな映画。メインステージである砂浜に登場する人物は11人だが、それぞれ伏線のため役割を終えて順次退場するので非常にシンプル。

少し不思議な、ミステリーやスリラーが好きな人にはオススメできます。上述の通り内容は薄めなので先入観なくさらっと見たほうがいいでしょう。

 

ちなみにamazonプライムで「ゾンビ映画」と検索して出てきたんですが、一切関係ありません。

 

個人的な監督と作品のイメージ

シャマラン監督は知名度と期待は大きいものの、その都度がっかりされる印象の強い人物です。「絶対にネタバレをしないでください」という触れ込みで話題になった『シックス・センス』が代表作なだけあってトリックに注目されがちですが、この監督の作風はそこではないと思っています。

トリックという小さな種を、大きく根付かせ成長させて、見事な大樹で圧倒するような手品師の如き監督ではなく、植木鉢に植えて丁寧に水をやり、やがて庭に移植する家族の風景を淡々と描くような、地味なものに過ぎません。

その種の色が余りにも毒々しいため、さぞかし特別な花を咲かせるだろう、特殊な成長過程を経るだろう、そう期待してしまうのは我々の勝手に過ぎないのです。

 

Rotten Tomatoesの批評家支持率は50%、点数も5.5/10点と、酷評されているようでいて、内容はすっぱりと賛否両論に分かれています。「彼は人を強烈に惹きつける仕掛けを用意するが、邪悪に展開することはなく、最後に問いかけを残して終了する」とは一人の批評家の談。シャマラン監督の作風と、この映画の内容を端的に表していると思いました。

 

本作への個人レビュアーの批判的な感想で、最も多い指摘は設定や演出の粗の多さですが、ビーチのメカニズムとか、ルールとか、トリックとかは凄くどうでもいい作品なんです。これらの舞台設定は教訓や箴言を伝えるための手段に過ぎず、そこを指摘するのは「マッチ売りの少女はなぜマッチを売るのか」「赤ずきんが祖母と狼を見間違えるのはおかしい」と真剣に悩むようなものです。

 

『サイン』を観た人には思い出してもらいたいのですが、あの映画の宇宙人のディテールや、世界が侵略されている詳細な情報、その後の家族の行方というのはまるっきり無視されている。たまたま起きた非日常的*2な展開に対して、特定の個人や集団がどう動いていくのか、そのドラマを描いているに過ぎない。

映画や小説で起きるようなイベントとまでは行かずとも、人生の終焉を感じたり、自殺を考えるような心理的ショックを起こすイベントは、我々にも起き得ます。しかしそれは他人事であった場合、抽象化され、余りにも容易に矮小化されてしまう。

それを現実的にスケーリングしてほしいがため、シャマラン監督は大げさな舞台設定を用いるのでしょう。「まるで地球に宇宙人が襲来したような」気持ちで感じてほしいから。

 

「老いる」ということへの寓話

監督自身はこうインタビューで答えていますが、ここからは希望的観測に基づいて寓話を解釈していきたいと思います。

ちなみに作品中に登場するリゾートホテルの名前はanamika、ヒンズー語で女性の名前であり、「名前をもたないもの」という意味になるそうです。けっこうスパやサロンなんかで実際に使われる名前で、利用客に女性が多いことや、アーユルヴェーダのようなインド由来のエステ手法にかけているのでしょうね。

寓話では登場人物は舞台装置に過ぎず、名前が無いことのほうが多いです。群像劇風な作品でありながら、何か意図を持たせているように思えてなりません。

 

こっから本題。

私たちが人間関係において機能障害を起こす原因と、その具体的な解決策とは何だろうか、という問題提起なのかなぁと感じました。言うまでもなくインド仏教の「生老病死」の概念が密接に関わっています。

例えばビーチにおいて最も影響力と権力を持っていたのは医師でした。彼は死や疾病に対処してくれるだけでなく、唯一武器を持っていましたが、その責任の重さや強い自意識からコミュニティを混乱させました。現実世界での独裁者やミクロな面で言えばDV夫のアイコンですね。

次いで看護師と心理カウンセラーの夫婦。集団催眠を疑ったり、セラピーでコミュニティの鎮静化を図ろうとするが、うまく機能しなかった。結局看護師である夫はみんなを救うために病気の妻を見捨ててしまう。彼らに必要なのは解決に向かうヒーローではなく、共感してくれるメンターだったのかもしれません。

さらに、先にビーチに到着していた著名なラッパーである黒人男性は、余りにも徹底して傍観者に過ぎませんでした。本来であれば他人の心に訴えかけ、影響力を持つはずの人物でしたが、同じ境遇の知人を失ったことでやはり機能不全に。天才は孤独であることの象徴でしょうか。

主人公達の家族は、家庭内に深刻な不和を抱えていましたが、やがて置かれた状況から「それどころではない」と気づき始めます。彼らを救ったものは何なのか。残酷なまでに平等な時間(猶予)、あるいは愚鈍なまでの諦め。保険数理士である夫は頻繁に数字や統計を持ち出すが、人生の重大な転機において統計が何の意味も持たないことは誰でも分かる。統計的にあり得ないことが現実に目の前にあることの解決にはならないからです。

 

オチに関しては、あえて触れるまでもありませんね。桃太郎がなぜそんなに都合よく鬼を対峙できたのか。勧善懲悪のおとぎ話に、そんなディテールは不要です。

*1:アンソロジー形式のSFドラマ

*2:シャマランはここが余りにも強烈に過ぎる

戦う女性映画論

いや「論」とつくほど高尚な話をするつもりはありませんが。

 

hakaiya.hateblo.jp

 

凄い面白い記事だったので、つられて私の好きな女性主人公映画を書いていこうという試み。こちらのブログはいつも有益なデータを教えてくれるのでよく見ています。

羊たちの沈黙』と『エイリアン』が2TOPなのは納得です。映画タイトルだけでなく、クラリスリプリーという主人公の名前まで知られている作品はそうないですから。

80~90年代は、社会の出来事が映画のテーマに反映されるのが飛躍的に早まった時代でもありました。女性は守られるだけの存在ではない、合理性の無い慣習なんかクソ食らえ、そういうメッセージ性はカタルシスを生みやすく娯楽映画としても社会啓発としても優れていました。

 

ところで、上の記事は「女性主人公」というだけであって「戦う女性」ではないのですが、不思議と何かと戦う映画が多いのが面白いですよね。まあ私も思いついた作品はそんな映画ばかりなんですが。

 

 

1.依頼人 1994年

いきなり1個目から「これ主人公は少年じゃないのか」って疑惑もあるんですが。戦う女性といえば法廷モノだよなーと思って、一番好きな女性弁護士を想像したらこの作品が思いつきました。

弟と一緒に男性の自殺現場に居合わせてしまった少年は、男性の遺言を聞き遂げたことでトラブルに巻き込まれてしまい、自分と弟を守るために弁護士を雇う決意をする。

告発の行方』とも迷いましたが、あっちは検事だし元記事でも触れられていたので割愛。ちょっぴり女性蔑視で生意気なクソガキを、司法を巻き込んだ巨悪から守るギャップが女性弁護士ならではで、依頼料はたったの1ドルという粋な演出が印象深い。

 

2.攻殻機動隊 1995年

アニメ作品でもランクインしていなかったのが不思議なくらいの有名作。やっぱり好きな映画ランキングだと女性票が重要だろうし、そりゃジブリの方が強いよね。

人体の機能拡張や情報通信技術の飛躍的な上昇により、もはや国境はおろか自分と他人を隔てる境界すら曖昧になりつつある、近未来。国家の危機を極秘裏に解決する内閣直属部隊「公安9課(俗称:攻殻機動隊)」に所属する草薙素子は、人間の脳をハッキングするハッカー(通称:人形使い)を逮捕するべく奮闘する。

記憶を頼りに自分であらすじ書いてて思ったけど、攻機って内務大臣直属では?アニメ版だと首相直属だったよね・・・?アニメ劇場版の続編(イノセンス)は主人公がバトーだけど、今作は少佐が主人公でいいはず。TVシリーズ版も少佐が主人公だし。(SSSはトグサが主人公っぽいけど)

攻殻機動隊は「ゴースト」と呼ばれる独自の設定を元にストーリーが展開することが多く、この用語を正確に説明することは非常に難しい。「ゴースト」を持つことが生命が生命たる条件でもあるが、科学技術が高度に発達している世界のため、もはや無機物であるアンドロイドと、有機的なクローン人間との違いはほとんど無い。(まさに”高度に発達した科学は魔法と見分けがつかない”の典型である。)

ましてAIが「私は生命体であり、人権を持っている」と発言した場合、それが自分を防衛するためのプログラム的発言なのか、本当に自意識を獲得しているのか判断する方法はないと言える。さらに、主人公である少佐(草薙素子)は全身が機械であり、自分がAIではないという証拠もまた存在しない。

こんな感じの葛藤、「人間とは何か」という根源的で曖昧な問いを、極めて人間的とは程遠い近未来の設定で逆説的に浮き彫りにするのが『攻殻機動隊』という作品群のメインテーマだと思っている。(オタク特有のドヤ顔早口トーク)

 

3.ナイト・オブ・ザ・リビングデッド/死霊創世記 1990年

1968年ロメロ版のリメイク。ゾンビ映画の中ではトップで好きだし、映画全体の中でも上位にくる。

兄と両親の墓参りにきた主人公バーバラは、ゾンビに襲われて近くの民家に逃げ込む。民家には住人の他にも避難してきた人々がおり、みんなで協力して籠城する決意を固める。

リメイク前後で大きく違うのは、バーバラが自分でも能動的にゾンビと戦う点。ここでも時代が感じられる。「ゾンビと言えば籠城だ!」とか「ゾンビ発生の理由はウィルスだ、宇宙人だ、いや地獄の釜が一杯になったのだ(no more room in hell)」とか、現代のゾンビ作品にも多大すぎるほどの影響を与えている。あらゆるホラー、サスペンス、スリラー、アクションの要素はゾンビ映画に通じると言っても過言ではない理由がここにある。

そういえばゾンビ映画は女性主人公多いね。これもロメロの影響かも。

 

4.ホワイトアウト 2009年

ケイト・ベッキンセイル主演の・・・何だろうポリスアクション?ミステリー?

南極基地に勤務する連邦捜査官のキャリーは、2年の任期を終えようとする間際に他殺体を発見する。人類初の南極大陸での殺人事件捜査は過酷な環境と犯人の思惑によって錯綜する。

一般的には無名だと思うんだけど、妙に好きなんです。特に主人公が目的のために痛みや苦悩に耐えるシーンがあるのがタイプ。ケイト・ベッキンセイル自体は他の作品も含めて好きじゃないんですが、撮影も大変だったろうし、ストーリーも良くて、オススメです。

密室とまでは言わないけど、特殊な環境の殺人であったり、隠された動機であったり、秀逸なトリックは無いがミステリー作品としても見れる。

 

5.ストーリーオブマイライフ/若草物語 2019年

一気に最近の作品。たまたま見かけたこのポスターのシーンを見て、いつか見ようリストに入ってました。19世紀後半のアメリカ・ファッションが好きで、特に冬のマンハッタンとかはツボです。

人混みの多い雑踏を、ドレスをたくしあげて颯爽と走る姿が格好良い。リフォームドレスとは違うんでしょうか。ドロワーズとか下着ではなく、労働するのに便利なスタイルなんだと思います。女子校生の制服スカートにジャージみたいな。

マサチューセッツに住む4人の姉妹を描いた群像劇映画。主な登場人物である次女のジョーは小説家を夢見てニューヨークに上京し、前時代的な女性の扱いや恋愛観と格闘する。

1860年代の自伝的小説『若草物語』の映画化。原作はかなりの長編かつ、登場人物の描写やエピソードが家族全体にわたるため、何度も映画化されている。今作は4姉妹の中でもジョーに焦点を当て、原作第一部の幼少期エピソードを交えながら、原作第二部の転換期までを描いている。

男性主導の労働環境、才能と諦め、将来の夢と恋愛の対立、家庭内の事件と不和、あらゆる女性人生の苦悩を詰め込んだかのような内容に圧倒される。嫁姑問題があればコンプリートだったかもしれない。

苦労人として描かれる長女のメグをエマ・ワトソンが演じているのだが、余りの美しさと漂う気品高さから、人物相関図とストーリーが一切かみ合わず、何を見せられているのか理解できなくて脳がバグった。冴えない貧乏教師の妻には見えないだろ常識的に考えて。王族かと思ったわ。ドレスを仕立てるための生地が高すぎて買えず、かと言って安月給と夫を罵ることもできない幸薄さ100%のメグなんだけど、こいつ普段着でパーティ出れるだろ。

美しい4人姉妹と妻を持つ、牧師である父親を演じるのがボブ・オデンカーク。そう、ソウル・グッドマンである。マジで脳がバグるからやめろ。妻はローラ・ダーンで、『ジュラシックパーク』のエリー博士や『アイアムサム』の里親役を演じた人。6歳のダコタ・ファニングを慈愛の心で抱く母親像と、ソウル・グッドマンの妻である立場が嚙み合わなすぎるだろ。あと家族団らんのシーン笑うからやめて。

とても150年前の話とは思えないほど盛りだくさんなので、男女問わず見て欲しい作品。

 

・まとめ

簡単に紹介するつもりだったが、1個1個に思い入れがあって書き始めたら長くなったしまったのでここらへんにします。もっとあるはずなんですが・・・。

女性主人公の映画ってどうしてもフェミニズムが前面に出てきてしまうので、女性受けがいい作品は男性受けが悪くなったりしそうなものですが、両立することは可能だと名作が証明しています。(『キューティ・ブロンド』とか大嫌いな男性は多いでしょうが・・・。)

よく「男性は目的と解決、女性は共感」などと言われることが多いですが、男性向け映画は「戦う敵が分かりやすいかどうか」女性向け映画は「戦う人がカッコ良くて共感できるか」が大事なんだと思います。

そりゃ男性だって露骨な性犯罪者は嫌いですし、それをボコボコにする綺麗な女性は見ててスカっとしますからね。

『呪詛』台湾ホラー映画レビュー

 

『呪詛(原題:咒)』2022年 台湾

 

あらすじ
6年前、自称「超常現象調査隊」のyoutuber3人が田舎の村で禁忌に触れ、呪いを受けてしまう。

調査隊の一人であるリーは自身だけでなく、その後生まれた娘にも迫る呪いに立ち向かおうとするが、刻々とその力は強まっていく。

 

制作はNetflixではなく、配給と独占契約を結んでいるようですね。

「台湾史上最も怖いホラー映画」「アジアホラー大国台湾が放つ傑作」とか言われてますけど、賢明な映画ファンならよくご存知の「全米が泣いた」と同じような意味だと思っていいです。

タイの時も韓国の時も同じこと言われてましたけど、誰か一つでもタイトル覚えてる人います?

 

”禍福は糾える縄の如し”

冒頭で主人公リーは、自分語りをビデオカメラで撮影しはじめる。自身と娘に降りかかっている災厄、祈りの本質、そして視聴している我々に対する要望。

POVにありがちな「これは大量殺人鬼の自宅から押収された映像である」とか「これから起きる現象を愛する人のために記録する」みたいな導入と大差は無いが、ターゲットを我々に限定しているところがドキリとさせられる。

フェイクドキュメンタリーに限らず、ホラー映画は本当に起こった、あるいは「現在進行形であるという体」で話が進められていき、「本当だったら怖いよね」というスタンスが視聴者に求められる。(つまりリアリティが没入感に直結する。)

今作の導入部はある種のメタ的な演出による意外性と、何か仕掛けがあるに違いないという緊張感、直接的な呼びかけの親近感が、視聴に対するのめり込みの強さを作り出している。

『ブレアウィッチプロジェクト』に代表されるPOVホラーは、本質的には登場人物たちがキャーキャーと怖がっている映像を見せられているに過ぎない。それが一人称であったり、媒体が我々でも普段使いうるデジカメやスマホであるというだけで新鮮さを保っているに過ぎず、遠い異国のどこか分からない田舎で誰かが大変な目に遭っているという感想しかない。(臨場感は画面揺れにかき消され、恐怖対象への距離感は嘘くささを助長する。)

今作では主人公が用意した(我々に向けた)記録用のビデオカメラ、病院や警察署の監視カメラ、車のドライブレコーダー、ぬいぐるみに仕掛けた隠しカメラなど、色んな角度で、それも自然に、視聴の妨げにならない程度に現象を丁寧に映し出している。これはコンテを切るのが相当に大変だっただろうと思われる。

韓国ホラーの『コンジアム』などはむしろ逆で、POV映像を膨大に撮り重ねていき、編集段階で映像同士を組み立てていく人海戦術的な力業であったのに対し

今作『呪詛』ではあらかじめ決められたプロットを補完するために、様々な機材や角度で現象を撮影していく制作過程を踏んでいる。勿論これは撮影時の都合で撮影タイミングがバラバラであり、また作品のストーリー的にも時系列が前後したりするので、編集の労力は同じくらい大変ではあるが、それを感じさせない映像の見やすさがあった。

さながら複雑な展開を含むミステリー小説を、文章力ひとつでまとめあげる緻密さを感じさせる。

 

良いところ

・POVの最大の欠点である、視聴のしにくさ、分かりづらさを徹底的に排除している。

個人的に映画館が嫌いなので、パソコン画面で見ても視聴に耐えうる点は高評価。ホラーでなくとも何やってるか分からない、ただただ疲労するだけの映画は結構多いですからね。(どんなアクション超大作であったとしても。)

→派手な絵面が無いだけ、と言えばそれまでだが。特に主人公の娘が淡々と映るシーンは少々退屈。落差を生むために挿入している必要悪だと露骨に分かってしまう。

 

・台湾のオリエンタルビジュアル。

これは海外に受けるだろうな、というのが嫉妬するほど感じる。特に作品中で呪いの原因となった風習の「本尊」や儀式小道具のビジュアルは秀逸で、子供時代に香港ホラーを見ていた人なら懐かしさすら覚える。

→ただし宗教的なリアリティラインの確保はかなりおざなりで、再現性はとても低い。キリスト教圏で突拍子もなく天使や悪魔が戦いだすような「気まずさ」を含んでいる。

 

悪いところ

・ホラー演出についての一貫性の無さ。

今作は幽霊や怪物が相手ではなく、目に見えない呪いを恐怖対象として描いているにも関わらず、ゾンビ的なジャンピングスケア(かなり弱め)や、貞子や伽椰子が登場する前触れ的な怪奇現象が多い。献立を和食に選んでおきながら、美味しけりゃいいとばかりにマヨネーズをかけるような真似は余り賛同できない。味付けにすぎないと言うには、主張が強すぎると感じた。

 

・呪いや心霊的現象についてのメカニズムは一切説明されない。

導入部の秀逸さとビジュアルの良さを感じたからこそ、この設定部分には拒否反応があった。映画として何か仕掛けがあるのなら、その仕掛けに関する描写の深さが力点となり、オチの作用点の強さに繋がるのである。それは視聴者のホラーリテラシーが高く、トリックという支点がどれだけ強固なものであっても変わらない。いかにファンタジー世界で魔法が当たり前のものであったとしても、その体系的なメカニズムを描かなければ、白けてしまうのと同様だ。魔法を扱うのであれば、その扱いの難しさやデメリットを描くことで、同じ演出でも扱う者への見え方が変わる。

『リング』では貞子が超能力者であった過去と、呪いのビデオのルールという掘り下げがあったことで、単純な恐怖映像以上の膨らみを持たせることができた。

 

まとめ

このブログでは特にネタバレに関してガイドラインは無い。完全に主観によって「この作品はネタバレされてでも見るべき」や「見る価値が無いのでネタバレする」という法則を作っている。とはいえ露骨な言及は避けてはいるが。

今作はどちらかと言うとネタバレ無しで、先入観無しに見たほうが面白いとは思う。とはいえホラーリテラシーの高い視聴者であれば、この記事でオチは分かってしまうであろうし、それは視聴を始めて冒頭部を見たところで気づく人は気づいてしまう。

結論的に、今作の目新しさや評価すべき点はあまり多くない。『犬鳴村』のような、にわかにネットで一時だけ話題になる、モキュメンタリーフォロワーに過ぎない。

『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』ほか感想

最近にはじまった話では無いが、新しい映画を発掘しようという気力はなかなか湧いてこない。やっぱりVODが良くないんでしょうかね。さらっと見てnot for meの雰囲気を感じたら視聴を止める、そんなことを繰り返す内に昔観て面白かった作品をもう一度再生してしまったりする。

Netflixの再生履歴を眺めてみれば、そんな作品で埋め尽くされている。

 

さらっと紹介していくので映画の詳細は省く。

漫画の実写化で、1作目は『ザ・ファブル』、続いてこちらが2作目の『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』 副題がついているだけで非常に紛らわしく、Netflixで続編が配信されていることに長らく気付かなかった。

1作目では、劇画調のシリアスな絵柄にシュールなギャグを挟む原作を、しっかりと実写に落とし込んでいたのだが

客寄せなのか、やや大げさに過ぎる映画オリジナルのアクションシーンが目に余った印象。

良くも悪くも2作目もそれを踏襲しており、露骨に原作ファンと実写映画にしか興味の無いにわかファンへの両面に媚を売ったような完成度になっている。

基本的に原作至上主義なので、メディアミックスが原作に悪影響を与えない限りはどんなに酷い出来であったとしても「ふーん、こんな風に作ったんだ。まあ原作面白いからいいけどね」というスタンスをとっている。

原作好きとしてはギリ及第点か、ややそれを下回るかなぁといった感想。

 

こっから視聴履歴から抜粋。

・『残穢 住んではいけない部屋』

過去に視聴済み。読者投稿の怪談を編集するライターが、マンションや土地にまつわる怪談に奇妙な符合を発見し調査していくミステリ仕立ての良作。原作もオススメ。

作者である小野不由美の新作『営繕かるかや怪異譚』を読んで、面白かったので再視聴した流れ。こっちは漫画化していて同様にオススメできる。どちらも身近で湿度がありながら、怖すぎないJホラー感が好き。

 

・『ラストサムライ

いつかもう一度見ようと思っていたリストの作品。真田広之のアクションシーンがすごい。

美術や小道具的、演出的な面ではハリウッドのトンデモ日本観を脱し切れておらず、またトム・クルーズの日本語はおろか、ネイティブの日本人キャストの日本語すらまともに聞き取れない。なんで英語字幕で日本語のセリフ内容を推測せねばならんのだ。

制作環境はかなり頑張ってはいるが、異文化の描写という点では意欲作の域を出ない。

 

・『ラストキャッスル』

ラスト繋がり。視聴済みかどうか記憶になかったが、15分くらいして「あ、これ見たことある」ってなった。刑務所の映画が好きなもので。

ショーシャンクの空に』のような、受刑者が管理する側に一泡吹かせる作品だけど、ケイパームービーにあるような手の込んだ仕掛けみたいなものはあまりない。「そうはならんやろ」という大味なシーンも多く、主人公にもあまり感情移入できない。

 

・『パトリオット

視聴済み。2時間半と少々長尺だが、王道的なストーリーで中だるみせずに観れる。メル・ギブソンは好きや・・・。

 

・『レインメーカー

視聴済み。『ゴッドファーザー』の監督が、売れない俳優時代のマット・デイモンを主役に抜擢した出世作とも言える作品だが、法廷もの好きのアメリカにおいても余りぱっとせず、地味な映画。同年の『グッドウィルハンティング』のインパクトが大きすぎたきらいがある。

 

・『地獄の変異

視聴済み。『サンクタム』と勘違いして見たが、地上波公開時のCMで野沢那智がナレーションを入れていた記憶しかない。ホラー映画としても前年の『ディセント』のほうが出来が良く、ダサい邦題とスーパーチープなオチの印象しか残らなかった。

 

・『ノッティングヒルの恋人

中学生ぶりに再視聴。恋愛映画って基本的に大人が見るものだけど、これはドロドロしすぎず子供も見れて、時代を超えて視聴に耐えうる良作だと思う。

ジュリア・ロバーツは特別美人というイメージは無いが、演技力の幅は広いと思う。

 

・『インターセプター』

今年公開の作品とは思えないほどチープで凡庸な作品。00年代にこういう映画たくさんあったよね。

軽いB級アクション映画としては見れるが、無駄に目が肥えてしまった今では、あらゆる演出がチープに見えて直視できない場面が多かった。

 

 

全然関係ないんですが、叙述トリックのミステリ小説を2冊続けて読んでしまい、今更ながら自分はこういう小説が苦手なんだと気付きました。驚きとか盛り上がりは作品の最終盤には不要だと思っていて、短編で済むような文章テクニックに延々と付き合わされてしまったな、という徒労感だけが残ってしまう。

オチにどんでん返しのあるような映画だと余り気にならないんだけど、何が違うのかと考えて悶々としています。

TFTのはなし

またゲームの話してる・・・。

むかしむかしにDota2のAutochessにハマって記事を書いたことがあるが、今ではTFTをメインに遊んでいる。Set5からプラチナランク程度までは触っているものの、しばらく離れていると基本的なシステムすら忘れているので恐ろしい。(そのぶん新鮮ではあるが)

Setが変わると、シナジーと呼ばれる特性はほとんど一新され、名前を見た程度ではどんな効果かはさっぱり分からない。初心者であれば尚更であろう。

備忘録も兼ねて、初心者向きの解説を書き記しておく。未来の自分と、未来の新規プレイヤーに向けて。長いので畳んでおきますよ。

 

Set7はドラゴンがメインテーマ。本編では一切リワークがされないオレリオン・ソルも大活躍!

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